始まりは某博物館
僕の最初の翻訳は12年前の秋でした。
当時は海外の大学卒業後で、帰国して新卒として就職活動をしていました。
翻訳業に特にこだわりはなく、海外経験を生かせる様々な仕事に応募していました。
就職活動がなかなかうまくいかない中、息抜きに都内のある生物学系の博物館に行くことにしました。(生物学専攻だったため、分野に興味がありました。)
その博物館は面白かったものの、展示は日本語のみでした。
これではせっかくの展示も日本語を読めない訪問者には十分に楽しめないので(そこそこ人気な博物館で、館内の訪問者ノートにも海外から来た人の記入がありました)、英文もなくてはと思いました。
翻訳を志願
そこで、「僕が英訳できる」とひらめきました。
この時点では翻訳の経験はなく、翻訳を勉強したこともなく、翻訳者になろうとも思っていませんでした。
でも、すでに英語がネイティブレベルのバイリンガルで、その分野の専門知識も持っていたので、展示の内容を訳せるという自信がありました。
また、英訳があれば海外から来た訪問者のためになると思ったので、モチベーションもありました。
なので、その場で博物館のスタッフを呼んで、思ったことを伝えて、「展示を僕に英訳させてください。ただでやります。」と志願してみました。
当然かもしれませんが、即却下されました。
でも僕にはまだ訳したい気持ちがありました。
そのため、家で試しに同分野の資料を英訳し始めました。
これが僕の初めての翻訳でした。
初翻訳の手応え
翻訳は初めてだったものの、必要なスキルは持っていたおかげで、割とスムーズに翻訳できることに気付きました。もちろん完璧ではなかったと思いますが、手応えはありました。
何よりも、あまり考えずに、自然に日本語が脳に入って英語が出てくるような感覚を覚えました。
(逆方向はできず、今もできませんが。)
訳文を読んでくれる人はいないと分かっていても、興味が沸いてきて、時間を見つけては訳していました。
そして、翻訳者という仕事にも興味を持ち、就活でも翻訳会社にも応募し始めました。
応募するも門前払い
しかし、応募した翻訳会社はどれも翻訳の仕事は「翻訳経験者のみ」という必須条件があり、それに加えて英訳は「ネイティブ限定」だったため、日本人で英訳しかできない僕はチャンスさえもらえませんでした。
翻訳経験を積もうと思い、日英翻訳のボランティアに登録しようとしても、同じ理由で僕は翻訳させてもらえませんでした。
最後の最後に
就職活動は半年以上かけて最初の60社以上全て不合格で、難航していました。
ほぼ諦めかけた頃、ある翻訳会社が面接の機会を与えてくれました。
もう就職の最後のチャンスだと思い、思い切って家で作成していた訳文をサンプルとして面接に持って行って見せることにしました。
すると、そのおかげもあって合格となり、翻訳者としての人生が始まりました。
思わぬ形で「初めての翻訳」が生きました。
博物館に行った日から、4ヵ月以上経っていました。
季節も春になっていました。