翻訳解説:「大迫半端ないって」

先日「大迫半端ないって」元ネタを訳してみたところ、たくさんのリツイートやいいねをいただき、嬉しかったです(皆様どうもありがとうございます!)。

この言葉はもはや「流行語」になっているようなので、今回の訳文を文ごとにプロの視点から分析してみたいと思います。

 

「大迫半端ないって、あいつ半端ないって。」

・まずキーワードの「半端ない」という表現ですが、unreal を使いました。他にも訳し方はあり、例えば off the charts(並外れた)という捉え方もできますし、ある英字新聞では "awesome" / "incredible" と紹介されているようです。

"awesome"を使わなかった理由は、あまりにも普通で、特に最近はかなり多用されている言葉であるためです。日本語の「すごい」に相当するかもしれませんが、とにかく色んな場面で良く使われます。「半端ない」という表現は「すごい」に比べると使用頻度はそれほど高くなく(普段は)、もっと特色のある表現だと思います。Unreal も awesome ほどは使われないので、ちょうど良いと思いました。

“incredible” は意味的にはほぼ同じですが、試合後のロッカールームで高校生の選手が話しているシーンにはもっと若者が使うようなスラング的な言葉が自然だと思いました。そういう意味でも unreal がフィットします。

・また、この部分の言葉遣い(「~って」)と口調(動画を見ると分かりますが、絶叫しています)を考えますと、unreal だけでは物足りないです。話し手の選手は、大迫選手のすごさに圧倒されてお手上げ状態で、「もうどうしようもないんだよ」と訴えているように聞こえます。

そのため、訳文の最初の文に just を加えて just unreal にし、最後の文に I’m telling you. を加えました。この I’m telling you. は「本当にそうなんだよ」のような意味を持ち、言っていることを強調する効果があります。

・最初の文に関しては、 Osako, that guy is just unreal. などのほうがもっとリズム感があったかもしれませんが、「大迫半端ないって」はスローガン性があるので、なるべく簡潔でcatchyで印象に残りやすい文にしました。

・最後の Dude’s unreal に関しては、本来は That dude’s unreal など、dude の前に限定詞が入ります。ですが、砕けた会話ではこのように限定詞無しで使うことがあり、今回の文脈に合うので、意図的に限定詞を抜きました。

 

「後ろ向きのボールめっちゃトラップするもん。」

・これが唯一サッカーの技術的な知識が必要な部分だったと思いますが、要するに背後から来るパスを、体を前に向けたまま受けることですね。

「後ろ向き」にはよく one’s back to~ が使われ (“with his back to the goal”など)、この場合は大迫選手がパスを出す選手に対して「後ろ向き」なので、with his back to the passer にしました。

 

「そんなのできひんやん普通。」

・この部分は直訳しますと Most people can’t do that. などになりますが、それではトーンが客観的で淡々としているので、感情が伝わってきません。話し手の選手は「そんなことできる人いるかよ?」のような、驚きと称賛を込めた言い方でしたので、英訳を who does that? という rhetorical question(回答を求めているのではなく、何かを主張するための質問)に意訳しました。

・訳文では … the passer—who does that? と前の文に横線でつなげていますが、この横棒は em dash と呼びます。英語では線の長さ別に hyphen, en dash, em dash という3種類の横棒があり、それぞれ使い方が異なります。これは校正レベルの話なので説明は省きますが、この場合は em dash という長い横棒(—)が適切です。ハイフン(-)などは正しくありません。

・また、この文は関西弁でしたが、訳文は標準語の英語にしました。「原文が方言なら訳文も方言に」という考え方もあるかもしれませんが、翻訳においてこれはあまり成功しないと思います。なぜなら、関西弁には関西特有の雰囲気や印象があり、それは英語圏のどの方言でも再現できないためです。仮に例えばアメリカ南部英語風に訳したところで、兵庫県アラバマ州は全然違いますし、訳文で方言の使用が変に目立ってしまい、言葉のエッセンスよりもそこに注目が行ってしまうリスクがあります。そのため、方言は敢えて使いませんでした。

 

以上が訳文の解説でした。

僕は本職では医学系の論文などを翻訳しているので、このようなスポーツ界での台詞を訳すことは普段ありませんが、どの分野でも翻訳の基本は同じだと思います。

具体的には、

  • コンテキストを把握し、それを考慮しながら原文を解釈すること
  • 「言葉」というよりも、意図された「意味」を正確に反映すること
  • 文法はもとより、スタイル的に適切で自然な表現を使うこと

などですね。