ポストエディットの問題点

翻訳業界では近年、機械翻訳+ポストエディット」(MT+PE) というサービスが関心を集めています。今回はこのアプローチの問題点について書いてみたいと思います。

「ポストエディット」とは

まず、「ポストエディット」とは機械翻訳が出力した訳文を修正して、お客様に納品できるレベルに仕上げる作業です。具体的には原文と機械翻訳の訳文を比較し、誤訳や訳抜けなどのミスを探して直したり、文章を読みやすくしたりします。

作業内容は基本的に「翻訳チェック」という作業と同じですが、「翻訳チェック」は人間による翻訳をチェックするもので、「ポストエディット」は機械翻訳に対して行われる作業です。

機械翻訳+ポストエディット」というサービスのメリットは、機械翻訳の使用により人間よりも早く低コストで訳文が出力されるため、従来の人間による翻訳よりも効率的で生産性もアップすることとされています。 

ポストエディットの問題点

① 負担が大きい

ポストエディットにかかる手間や時間は、訳文の品質に大きく左右されます。

もし機械翻訳が高いレベルの訳文を生成することができれば、修正の数は少なく、セオリー通り効率良く翻訳を仕上げることができるでしょう。

しかし実際は機械翻訳はどのツールも未だに実用的なレベルではなく、精度に欠けていて多くの修正が必要です。これでは時間が省けないですし、このサービスのメリットがなくなってしまいます。

② 人材がいない

MT+PEサービスを提供する側としてはポストエディットをプロの翻訳者にお願いしたいようですが、それにはいくつか課題があります:

・求められるスキルが異なる:翻訳とポストエディットは根本的に異なる作業なので(前者は「ゼロから作る」作業、後者は「比べる」作業)、翻訳ができるからといってポストエディットができるとは限りません。

・経済的に成り立たない:ポストエディットの単価は通常の翻訳のレートよりも低いので、もし多くの修正や再翻訳が必要で通常の翻訳と同じくらいの時間がかかる場合、作業者は収入ダウンするだけです。

・受けたくない:レート以前に、単純にポストエディットという作業をしたくない翻訳者も多いです。まず、二つの文章を見比べる作業は非常に神経を使いますし、その上ミスだらけの文章を直す作業は大変でストレスになります。また、ポストエディットでは機械翻訳をベースとして修正するのが前提なので、「自ら訳を作り出す」という翻訳者の強みが生かせません。そのため、実力がある訳者さんほどこの作業を避けるでしょう。

③ 品質が落ちる

上記の通り、ポストエディットでは通常の翻訳と異なり、翻訳をゼロから始めることができません。しかし、翻訳は blank canvas(白紙状態)から始めたほうが高品質になります。ゼロからスタートするからこそ、原文に集中できて、意味を把握できて、最適な訳文を作り出すことができます。それに対し、ポストエディットでは最初から機械翻訳の拙訳を見なければいけないので、目障りですし思考の邪魔になります。また、ミスの修正に気を取られてしまうと、文章の流れや全体像も見失ってしまい、内容をしっかり把握できなくなる恐れもあります。

④ 能力が落ちる

・翻訳者がPEを担当する場合:自ら訳を思いつくというステップが無いので、その能力(翻訳する能力)が落ちてしまいます。

・翻訳チェッカーがPEを担当する場合:翻訳チェックは翻訳者になるための良い勉強になると言われています。これは、チェックする訳文が良い「お手本」になり、チェックしていくうちに適切な表現や訳し方を覚えることができるためです。しかし、PEでは訳文がミスだらけで文章力にも欠けているので、お手本にはならず、翻訳スキルが向上しません。

最後に

最近、翻訳業界では機械翻訳やポストエディットのメリットだけに注目したり、それらのサービスを強引に推進しようとする動きが見られます。しかし、実際はこのように重大な問題点もあります。そのため、「機械翻訳+ポストエディット」を一方的に押し付けるのではなく、そのサービスが与え得る様々な影響を慎重に、かつ客観的に考えるべきではないかと思います。